#72 「病院には行かない」と言われたら…。
受診を拒む本人を前に、家族はどうしたらいい?

医療のヒント

「病院なんて絶対に行かない!」
「おかしいのは私じゃなくて、周りのほうだ!」

明らかな異変があるのに、本人が激しく受診を拒む。説得するたびに怒り出し、部屋に引きこもる。そんな平行線が続くと、ご家族は途方に暮れ、「私たちの接し方が悪かったのか」と自分を責めてしまうことがあります。

まず、精神保健福祉士(PSW=MHSW)としてお伝えしたいのは、👉 本人が受診を拒むのは、ご家族の説得が足りないからでも、接し方が悪いからでもありません。

そして、👉 本人が行かなくても、「家族だけが先に」相談窓口に行くことで、支援をスタートできるということです。

この記事では、受診を拒むご本人に対して家族ができる具体的なアクションを整理します。

① なぜ「行かない」と頑なに言うのか

統合失調症などでは、「自分が病気だ」と認識しにくくなること(病識の欠如)が非常によくあります。

本人にとって「誰かに監視されている」という体験は、生々しい現実です。そこで「妄想だから病院へ行こう」と言われると、👉 「本当に命の危機を感じているのに、家族は私を病気扱いして見捨てようとしている!」と感じてしまいます。

これはワガママではなく、“見えている現実”の捉え方がズレているから起こるすれ違いです。「病院へ行って!」と正論で説得を繰り返すほど、本人は「家族に全否定された」と感じ、不信感を募らせる悪循環に陥ってしまいます。

② 「病気」ではなく「本人の困りごと」から話す

病気を認めてもらうことだけが受診の入口ではありません。

「最近、眠れていないよね。つらくない?」 「ご飯が食べられていなくて心配だよ」

このように、👉 「本人が今、体や生活で困っていること」から話してみます。 そして「病気を治そう」ではなく、「ぐっすり眠れるお薬がないか、一緒に相談しに行ってみない?」と提案する。不眠や疲労の解消が目的であれば、受診のハードルはグッと下がります。

③ 本人が行かなくても、「家族だけ」で相談していい

これが最もお伝えしたいことです。 「本人が行かないと病院には相談できない」と思い込んでいる方は多いですが、👉 本人が受診していなくても、「家族だけ」が地域の相談機関(保健所、精神保健福祉センター、病院のPSWなど)へ駆け込むことは絶対に可能です。

本人が動けないときこそ、動ける家族が先に相談しに行って作戦を立てるのが、確実な支援の始まり方です。 相談時は「統合失調症だと思います」という診断名ではなく、👉 「3週間前から夜中も起きていて眠っていない」「怯えてカーテンを閉め切っている」といった『実際に家で起きている事実(異変)』を伝えてください。

④ 家族だけで抱え込まない「危険なサイン」

もし、以下のような緊急性が高い場合は、説得のタイミングを待たずに急いで保健所や医療機関へ相談してください。

✔ 刃物を持ち出すなど、自傷・他害のおそれがある ✔ 「死にたい」と言い、目がうつろになっている ✔ ほとんど眠らず、異常に興奮して叫んでいる ✔ 水分すら全く取れず、衰弱している

差し迫った危険がある場合は、ためらわずに警察(110番)や救急(119番)を呼ぶことも、命を守るための立派な支援です。「無理やり連れて行くしかないのか」という究極の選択を家族だけで決める必要はありません。プロにSOSを出してください。

⑤ ご家族自身が「限界」ではありませんか?

受診拒否が続く家庭では、ご家族が何週間も地獄のような緊張状態で生活しています。「一番苦しいのは本人だから」と自分のSOSを後回しにしがちですが、相談窓口に行く理由は本人を受診させるためだけではありません。

👉 「私自身がもう限界です。助けてください。」

それも、相談機関を頼るための100点満点の理由です。家族も支援され、守られるべき存在なのです。

🌈 まとめ ―― 本人が動けないとき、家族が先に動いていい

「病院には行かない。」 その言葉は巨大な壁に見えますが、そこで支援が終わるわけではありません。

病院に連れてこられなかったことを「私のせいだ」と責めないでください。声をかけ、食事を用意し、悩み抜いたことは、すべて相手を愛し支えようとする立派な支援行動です。

本人がまだ動けないなら、👉 家族が先に、支援者のドアをノックする。 そこから始まる確実な支援があります。本人を何とかしようとするあまり、あなた自身が倒れてしまわないよう、まずは「家族だけでは限界です」と外部にSOSを出してみてくださいね。

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