「退院してから、ずっと家で寝ています。」
「以前は好きだったゲームもせず、お風呂にも入らない。」
「声をかけても、『あとで』ばかりで……。」
幻聴や妄想は以前より落ち着き、薬も飲んでいる。それなのに、一日中何もしない姿を見ていると、ご家族は「そろそろ元の生活に戻ってほしい」「本人にやる気がない(怠けている)だけなのでは?」と焦りや苛立ちを感じてしまうことがあると思います。
でも、ここで知っておいてほしいことがあります。 👉 その「何もしたくない」「動けない」という状態そのものが、統合失調症の症状と関係している可能性が高いのです。
今回は、周囲からはとても見えにくい「陰性症状」について、精神保健福祉士(MHSW=PSW)の視点から一緒に考えてみたいと思います。

① 目立たないけれど重い、「陰性症状」という壁
統合失調症というと、「誰かに監視されている」「声が聞こえる」といった幻覚や妄想(陽性症状)を思い浮かべる方が多いと思います。
一方で、
- 意欲がわかない、何をしても楽しいと感じられない
- 人と会いたくない、感情が表に出にくくなる
- 入浴や着替えなど、身の回りのことをするのも大変になる
こうした症状を👉 「陰性症状」 と呼びます。幻聴や妄想ほど目立たないため、周囲からは「ただ怠けている人」のように誤解されがちですが、本人の脳の中では、以前と同じようには動けなくなっているのです。
② 「やらない」のではなく、「動き出すエネルギー」が湧かない
家族から見れば、「やろうと思えばできるでしょう?」と感じるかもしれません。確かに、身体そのものは動かせます。
でも、例えば「お風呂に入る」という行動一つをとっても、本人にとっては「立ち上がる→着替えを準備する→服を脱ぐ→身体を洗う→髪を乾かす」という、👉 気が遠くなるほど膨大で重い作業 に感じられています。
頭では「入らなきゃ」と思っていても、何かを始めるための「最初のエンジン」がかからない状態なのです。外から見えるのは「何もしない姿」だけでも、本人は決して「したくない」わけではありません。
③ 一番「動けない自分」に絶望しているのは、本人自身
「以前は仕事に行き、趣味も楽しんでいたのに。」 病気になる前の姿を知っているご家族にとって、今の状態を見るのはとてもつらいことです。だからこそ「少し頑張ればできるはず」と期待してしまうのは、ごく自然な愛情です。
でも、忘れないでほしいのは、👉 本人自身も「前の自分」と比べて深く苦しんでいる という事実です。 「昔は当たり前にできたのに、今はコンビニに行くだけでぐったりする。どうしてこんな自分になってしまったんだろう。」 周囲から「もっと動いたほうがいいよ」と言われるたび、本人は「自分が一番分かっているのに動けない」と、心をえぐられるように傷ついていることがあります。
④ 「頑張れ」より、目標を「一緒に小さく」してみる
では家族は、何も言わずにただ見守るしかないのでしょうか。 ポイントは、👉 求める行動のハードルを極限まで小さくすること です。
「毎日散歩しなさい」ではなく、「玄関の外まで一緒に出てみる?」 「ちゃんとお風呂に入りなさい」ではなく、「今日は顔を洗うところまでにする?」
大きな目標を、今できそうな大きさまで小さくしてみます。そして、それができたときには「それくらい当たり前」で終わらせず、その小さな一歩に莫大なエネルギーを使った本人を認めてあげてください。
⑤ 家族だけで抱え込まず、プロの支援と見極めを頼る
一日中横になっている状態が、すべて陰性症状とは限りません。薬の副作用(強い眠気やだるさ)、うつ状態、身体の病気が隠れていることもあります。 だからこそ、「陰性症状だから仕方ない」と家族だけで判断せず、主治医やMHSWに「家では一日中寝ています」と具体的な生活の様子を伝えてください。
また、自宅だけで生活を立て直すのが難しい場合は、👉 精神科デイケアや訪問看護 などの支援を利用する方法もあります。 「決まった時間に外へ出る」「週に一度、誰かと会う」。いきなり仕事に戻るのではなく、そうした小さな経験の積み重ねが、生活リズムを取り戻す回復の過程になります。
⑥ 家族も「いつまで待てばいいの?」と不安になっていい
「この生活はいつまで続くの?」「親がいなくなったらこの子はどうなるの?」 毎日一緒に暮らしている家族が、そうやって強い不安や焦りを抱くのは当然のことです。その不安を持つ自分を、「理解のないダメな家族だ」と責める必要はありません。
本人の回復を待つ時間は、家族にとっても先の見えない不安な時間です。だからこそ、👉 「私たち家族が、将来を不安に感じて限界です」と、ご家族自身も支援者へSOSを出していいのです。
🌈 まとめ ―― 回復を「元の自分に戻ること」だけで測らない
一日中横になっている。お風呂に入らない。 そんな姿を見ていると、「少しは頑張ってほしい」と思うのは当然です。でも、「怠けている」と決める前に、👉 「今、この人は動き出したくてもエネルギーが出なくて苦しんでいるのかもしれない」 と想像してみてください。
退院後の回復というと、どうしても「働けるようになった」「一人暮らしができた」という大きな変化に目が向きがちです。 でも、昨日より少し早く起きられた。自分からシャワーを浴びた。家族と一緒に夕食を食べた。そんな日常の小さな変化も、その人にとっては命がけの大切な一歩です。
病気になる前とまったく同じ自分に戻ることだけが、回復のゴールではありません。 👉 今の自分に合ったペースで、新しい生活を少しずつ作り直していくこと。 朝起きる、ご飯を食べる、少し笑う。そんなささやかな日常を一つずつ取り戻していくことも、立派な「回復」の形なのだと思います。焦らず、一緒に、小さな一歩を探していきましょう。


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