「最近、少し眠れていないみたいなんです。」
「前に入院したときも、こんな感じだったんですよね。」
「また悪くなったらどうしようと思うと、心配で心配で……。」
統合失調症の治療を受け、無事に退院して自宅での生活が始まった。 幻聴や妄想も落ち着き、少しずつ日常を取り戻している。
そんな中、本人のちょっとした変化に気づくことがあります。 夜遅くまで起きている。いつもより口数が少ない。外出する機会が減った。 すると、ご家族の頭には、過去の大変だったあの出来事がフラッシュバックします。
「また再発するんじゃないか。」 一度地獄のようなつらい経験をしたからこそ、二度と同じことを繰り返したくない。そう思うのは当然のことです。
でも、心配するあまり本人の一挙一動を監視するようになると、家族も本人も息が詰まって暮らせなくなってしまいます。 今回は、統合失調症の「再発」について、精神保健福祉士(MHSW=PSW)の視点から一緒に考えてみたいと思います。

① 再発の前に、必ず「小さなサイン(前兆)」が現れる
統合失調症は、風邪のようにある日突然ドカンと悪くなるわけではありません。症状が強くなる前に、普段とは違う👉 「早期警告サイン」 と呼ばれる小さな変化が現れます。
例えば、
- 眠れない日が何日も続く(昼夜逆転)★一番多いサインです
- 些細なことでイライラして怒鳴る
- 部屋に閉じこもり、家族とも口を利かなくなる
- 落ち着きがなく、家の中をウロウロ歩き回る
- 幻聴や妄想に関連する「誰かに見られている」といった訴えが再び出始める
ただし、これらの変化があれば「即再発だ!」と家族だけでパニックになる必要はありません。単なる疲れやストレスの場合もあります。「おや?いつもと違うな」と気づき、必要に応じて早めに相談することが大切です。
② 「最近どう?」の言葉が、本人への「監視」にならないために
再発が心配になると、家族は本人の様子を細かくチェックしたくなります。 「昨日は何時に寝たの?」「薬はちゃんと飲んだ?」「また調子が悪くなってるんじゃない?」
心配だからこその言葉ですが、本人からすると👉 「いつも監視されている」「自分は信用されていない」 と感じて心を閉ざしてしまいます。
本人の行動を管理(コントロール)することと、本人の体調を気にかける(ケアする)ことは違います。 「最近、眠りにくそうだけど、何か困っている?」「もし調子が悪かったら、次の受診で先生に一緒に相談しようか。」 本人が安心して「実はちょっと調子が悪いんだ」と弱音を吐ける関係を作ることが、一番の再発予防になります。
③ 元気なときに作っておく、「クライシスマネジメント(危機管理)」
再発への備えとして、私がMHSWとして最もお勧めしたいのが、 👉 調子が安定して元気なときに、「もし不調になったらどうするか」を本人と話し合っておくこと(クライシスマネジメント) です。
- 「眠れない日が3日続いたら、病院に電話して相談する」
- 「調子が悪いときは、お母さんからあれこれ聞かずに放っておいてほしい」
- 「もしパニックになったら、訪問看護師さんに電話してほしい」
こうした「自分たちのルール」を、本人の希望を聞きながら決めてメモしておきます。これを専門用語で👉 クライシスプラン(危機介入計画) と呼びます。 泥棒が入ってから防犯の話し合いをするのが不可能なように、再発して混乱してからでは話し合いはできません。平和なときにこそ、「もしもの備え」をしておくのです。
④ 「少しおかしいかも」と思ったら、ためらわずにプロへ相談する
再発が疑われる変化があったとき、「もう少し様子を見よう(一時的なものかもしれない)」と家族だけで抱え込んでしまうことがよくあります。
でも、不眠が続いたり、不安や幻聴・妄想が強くなっている場合には、早めに主治医やPSW、訪問看護師へ相談してください。 👉 「大きく悪くなってから救急車を呼ぶ」のではなく、「少し気になる段階で外来で相談(お薬の調整)をする」。 ボヤのうちに火消しをすることができれば、再入院を防ぐことは十分に可能です。
⑤ 再発したからといって、これまでの努力が「ゼロ」になるわけではない
ここで、本人にも家族にも絶対に伝えたいことがあります。 もし再発して再入院になってしまったとしても、👉 それまでの回復や努力が、すべて「無駄(ゼロ)」になったわけではありません。
退院してから、自分で買い物に行けた。家族と穏やかにテレビを見られた。好きなことを楽しめる時間があった。そうした「当たり前の日常を生きた経験値」まで消えてしまうわけではないのです。
再発には、季節の変わり目やストレスなど、さまざまな要因が絡みます。 「本人が頑張らなかったからだ」「私が見張っていなかったからだ」と、誰か一人の責任にして自分たちを責めないでください。落ち着いてから、「次はどうやって防ごうか」と一緒に振り返ればいいのです。
🌈 まとめ ―― 「再発しないこと」を人生の目標にしないで
精神科で仕事をしていると、ご家族から「絶対にまた入院させないようにします」「再発しないように見張ります」という言葉を聞くことがあります。
もちろん、再発を防ぐことは大切です。でも、本人の人生の目標が、👉 「再発しないように、息を潜めて生きること」だけになってしまうのは、あまりにも苦しい と思いませんか。
好きな音楽を聴く。友人と会う。散歩を楽しむ。少しだけ仕事に挑戦してみる。 病気を管理することだけが、その人の人生ではありません。 再発への備え(クライシスプラン)は、👉 本人が安心して、自分の望む「普通の暮らし」に挑戦し続けるための命綱(シートベルト) なのです。
「また再発したらどうしよう」と怯えて、人生を小さく制限する必要はありません。 不調になったときに頼れる人や場所を複数持ちながら、自分らしい暮らしをのびのびと続けていく。そのための備えを、本人と家族、そして私たち支援者が一緒に考えていけたらと心から願っています。🌱


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