「発達障害のこと、今の会社に話したほうがいいのでしょうか?」 発達障害の診断を受けた方や、特性に気づいた方から、精神保健福祉士(PSW=MHSW)として最も多く受ける相談の一つです。
仕事では限界に近いほど困っている。できれば少し配慮してほしい。 でも―― 「発達障害だと知られたら、変な目で見られるんじゃないか。」 「もう責任のある仕事を任せてもらえなくなるのでは?」 「関係ない同僚にまで噂が広まってしまうのが怖い。」
そんな強烈な不安から、誰にも言えずに一人で抱え込んでいる方はたくさんいます。 一方で、何も伝えずに「普通の人」のフリをして頑張り続けることにも、もう心身の限界を感じている。 👉 「言ったほうが楽になるかもしれない。でも、言うのが怖い。」 その間で揺れ動くのは、人間としてごく自然なことです。決してあなただけではありません。
まず、一番にお伝えしたいことがあります。 👉 「職場に伝えるか、伝えないか」に、すべての人に共通する絶対の正解はありません。
大切なのは、診断名を伝えることそのものではなく、👉 「あなたが体調を崩さずに働き続けるために、何が必要なのか」 を考えることです。 今回は、職場への伝え方について一緒に整理してみましょう。

① 「言いたくない」と思うのも、自分を守る自然な防衛反応
発達障害と分かったからといって、すぐに職場へ「伝えて配慮をもらおう!」と前向きになれるとは限りません。
「偏見を持たれたらどうしよう。」 「腫れ物扱いされたくない。」 「今までと同じように、一人の社会人として接してほしい。」
そんなふうに警戒するのは、👉 これ以上自分が傷つかないようにするための、自然な心の防衛反応 です。 診断を自分の中で受け入れる(受容する)だけでも膨大なエネルギーが必要なのに、さらに他人に説明するとなれば、なおさらです。 だから、「まだ話したくない、怖い」という自分の本音も、決して否定せずに大切にしていいのです。
② 「私は発達障害です」と診断名(ラベル)を伝えることだけが相談ではない
ここは、現場でもお伝えする非常に大切なポイントです。 職場へ相談すると聞くと、多くの方は👉 「私は発達障害(ADHD、ASDなど)です」とカミングアウトしなければならない と思い込んでいます。
でも、働きづらさを解消するためには、診断名(ラベル)を伝えることよりも、👉 「自分は何に困っていて、どういう工夫が必要か」 を具体的に伝えることのほうが何倍も重要です。
例えば、
- 「複数の指示を同時に受けると混乱しやすいので、一つずつお願いしてもいいですか?」
- 「口頭だけだと抜けてしまうので、メモを取る時間を少しいただけますか?」
- 「業務の優先順位が分からなくなったとき、都度確認させてもらえませんか?」
「発達障害です」と診断名を言わなくても、👉 「自分のトリセツ(取扱説明書)」の一部だけを、業務上の相談として上司に伝えること は明日からでもできるのです。
③ 伝える前に「何を変えたいのか(どうすれば会社に貢献できるか)」を考える
職場へ相談する前に、一度立ち止まって整理してほしいことがあります。 👉 「私は、会社に相談することで、何の状況を変えたいんだろう?」
「発達障害なので理解してください」とだけ伝えると、会社側も「それで、うちは具体的に何をすればいいの?」と困惑してしまうことがあります。
✔ 曖昧な指示ではなく、具体的な期限と内容を伝えてほしい ✔ 常に電話が鳴る席ではなく、少し静かな端の席にしてほしい
「こうしてもらえると、ミスが減って仕事がスムーズに進みます(会社に貢献できます)」と、👉 環境調整の提案としてセットで伝えられると、会社側も「なるほど、じゃあそうしよう」と配慮しやすくなります。
④ 誰に伝えるか、どこまで共有するかも「あなたが選べる」
職場の全員に、メガホンで知らせる必要は全くありません。 まずは、直属の上司、人事担当者、あるいは産業医など、👉 「キーマンとなる信頼できる人」 だけに相談する方法があります。
そして、👉 「このことは、上司と人事の間だけに留めてください(同僚には言わないでください)」と、情報の共有範囲を自分でコントロールすることも可能 です。 一人でどう伝えるか迷うなら、病院のPSWや就労支援スタッフと一緒に「伝えるためのメモ」を作ることもできます。
⑤ 伝えないで働く(クローズ就労)という選択もある
診断を受けたからといって、必ず職場へ伝えなければならない義務はありません。
自分なりの工夫でなんとか働けている。今のところ会社に特別な配慮を求めていない。 そうした場合には、👉 病気を伝えないまま働く「クローズ就労」 を続ける選択をする方もたくさんいます。
一方で、
- 何度工夫しても仕事で同じミスをしてしまう。
- 毎日、周りにバレないように気を張っていて極度に緊張している。
- 帰宅するとエネルギーがゼロになり、何もできないほど疲れ切っている。
そんな状態が続いているのであれば、👉 「一人で隠して頑張り続ける以外の方法(オープンにすること)」 を考えてもいい時期かもしれません。
⑥ 配慮を受けながら働く(オープン就労)方法もある
障害のことを伝え、会社から配慮をもらいながら働くことを👉 「オープン就労」 と呼びます。状況によっては、「合理的配慮」という法律に基づいたサポートを会社に相談することができます。
また、
- 今の会社で一般就労(オープン/クローズ)を続ける。
- 障害者手帳を取得して、「障害者雇用」という配慮を前提とした枠組みで働く。
- 一度休職や退職をして、「就労移行支援」などを利用し、働き方を一から整理する。
どれが偉くて、どれが劣っているということではありません。 大切なのは、👉 「今の自分が、一番無理なく、心身をすり減らさずに働き続けられる方法はどれだろう?」 という視点です。
⑦ 「伝える・伝えない」を、たった一人で決めなくてもいい
ここまで読んでも、「やっぱりどうしたらいいか分からない。」と頭が真っ白になる方もいると思います。 それで大丈夫です。今後の人生を左右するような大きな決断ほど、一人で考えていると不安で押しつぶされてしまいます。
主治医。病院のPSW。発達障害者支援センター。就労支援機関(ハローワークなど)。 あなたには、頼れるプロの相談先がたくさんあります。
👉 「会社に言うべきか迷っているんです。」 最初は、その相談だけでも構いません。あなたの心境や職場の状況を一緒に整理して、一番安全な道を一緒に探してもらうことができます。
🌈 まとめ ―― 「普通に働く」から「自分らしく働く」へ
このシリーズの最初の記事で、こんな悩みから始まりました。 「何度気をつけても、また同じミスをしてしまう。」
そして、 「もっと気合いを入れて頑張らなきゃ。」 「みんなと同じように、普通にできなきゃ。」 「社会人なんだから、甘えちゃダメだ。」 と、自分を限界まで責め続けてきたあなたの気持ちを、一緒に考えてきました。
でも、このシリーズを通して私が一番伝えたかったのは、発達障害の知識に詳しくなることだけではありません。 それは、 👉 これまで「自分を責めるため」に使ってきた莫大なエネルギーを、これからは「自分を理解し、自分を守るため」に使ってほしい。 ということです。
苦手なことがある。人より時間がかかることがある。助けてもらったほうがうまくできることもある。 でも、それだけで、👉 あなたという人間の素晴らしい価値が決まるわけでは決してありません。
職場へ伝える(オープン)か、伝えない(クローズ)か。 一般就労を続けるか、障害者雇用に切り替えるか。 今の職場で工夫するか、環境を思い切って変えるか。
あなたがどの道を選んでも、それは絶対に「逃げ」ではありません。 👉 「自分の大切な人生を、自分に合う形へデザインしていくための、前向きな選択」 です。
これまで、「どうしたら、みんなと同じようにできるだろう」と涙を流してきたあなたへ。 これからは、「どうしたら、私らしく無理なく暮らしていけるだろう」と、少しだけ自分に優しく問いかけてみませんか。
「普通」になることがゴールではありません。 自分の凸凹を少しずつ知って、助けが必要なときにはプロの力も借りながら、自分なりの歩き方を見つけていく。それでいいのだと思います。
あなたはこれからも、あなたのままで、ちゃんと歩いていけます。焦らず、一緒に進んでいきましょうね。🌱


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