#67 発達障害と診断された。そのあと、何が変わる?
「やっと分かった」のあとに戸惑っているあなたへ

医療のヒント

「(検査の結果)発達障害の特性があると思います。」 医師からそう伝えられたとき、あなたはどんな気持ちになったでしょうか。

「やっぱりそうだったんだ。」とホッとした方。 「自分には『障害』があるんだ……。」と大きなショックを受けた方。 あるいは、安心した気持ちと戸惑う気持ちが、ぐちゃぐちゃに入り混じっていた方もいるかもしれません。

そして診察室を出たあと、こんな疑問や不安が浮かんでくることがあります。 「それで、これからどうしたらいいんだろう?」 「診断がつけば、すべての悩みに答えが出ると思っていたのに……」

まず、PSW(精神保健福祉士)として、一番強くお伝えしたいことがあります。 👉 診断を受けたからといって、今日からあなた自身が「別の人」になるわけではありません。診断の前も、診断のあとも、あなたは同じあなたです。

今回は、発達障害の診断を受けたあとに感じやすい戸惑いと、「その先」をどう考えていけばよいのか、一緒に整理していきます。

① 「やっと理由が分かった」と心から安心してもいい

診断を受けて、涙を流して安心する方がいます。 それまで何年、何十年も、 「どうして同じミスをするんだろう。」 「どうしてみんなと同じように、普通にできないんだろう。」 「やっぱり、私の努力や気合いが足りないのかな。」 と、一人で自分を責め続けて悩んできたからです。

診断によって、子どもの頃の怒られた記憶。学生時代のこと。仕事でつまずいたこと。 これまでバラバラだった出来事が、👉 「あ、私が悪いんじゃなくて、脳の特性のせいだったんだ!」 と、一本の線でつながったように感じる方はたくさんいます。

診断は、過去の失敗を変えてくれるものではありません。 でも、👉 「あの頃の自分も、怠けていたわけじゃなくて、合わない環境で必死に頑張っていたんだな」と、過去の自分を見る目(解釈)を変えてくれる力 はあります。

② ショックを受けても、おかしくありません(心の整理には時間がかかる)

一方で、診断を受けて深く落ち込む方もいます。 「障害」という言葉をどうしても受け入れられなかったり、 「これから普通に働けるのだろうか。」 「結婚や家庭はどうなるんだろう。」 「周りから、変な目で見られるんじゃないか。」 と、将来への不安が一気に出てくることもあります。

PSWとしてお伝えしたいのは、👉 「すぐに前向きになんて、ならなくていい」 ということです。 自分が病気や障害を持っていると受け入れるまでには、「ショック→否定→怒り→受容」といった段階があり、長い時間がかかるのが人間としてごく自然な心の動きです。安心とショックが同時にあっても、全く構いません。

③ 診断名だけで「あなたという人間」を説明しなくていい

診断を受けると、これまでの自分の行動すべてを、 「これは私が発達障害だからだ」と、診断名に当てはめて考えたくなることがあります。

でも、人間は「診断名の枠」だけで説明できるほど単純ではありません。 得意なこと。苦手なこと。優しい性格。これまでの経験。好きなこと。大切にしている価値観。 👉 発達障害は、あなたという素晴らしい人間を構成する「ほんの一部分」であって、あなたそのものではありません。 診断名に飲み込まれなくて大丈夫です。

④ まずは漠然とした不安を「具体的な困りごと」に分解する

診断を受けたあと、「結局、何をしたらいいですか?」と戸惑うことがあります。 そんなとき、いきなり人生全体を変えようとしなくても大丈夫です。 まずは、👉 「私は毎日の生活で、どんな場面で一番困りやすいんだろう?」 と整理するところから始めてみてください。

  • 複数の指示を同時に受けると、頭が真っ白になる
  • 急な予定変更があると、パニックになる
  • 電話の音を聞きながらメモを取る(マルチタスク)のが難しい
  • 曖昧な指示(「適当にお願い」「なる早で」)だと動けなくなる

ここまで分解できれば、「自分はダメだ」という漠然とした絶望から、👉 「この場面では、こういう工夫が必要なんだ」という具体的な『対処可能な課題』 へと変わっていきます。これは、とても大きな前進です。

⑤ 「できない」を減らすより、「できる環境」を増やしていく

これまで、「苦手を努力で克服しなきゃ」と自分にムチを打ってきた方もいるかもしれません。 でも、必要なのは「普通にできる自分になること(自分を変えること)」ではなく、👉 「自分ができる方法や環境を見つけること(環境を変えること)」 です。福祉の世界ではこれを「環境調整」と呼びます。

  • 口頭だけでなく、メールやチャットなど文章で指示をもらう。
  • 作業を細かくチェックリスト化する。
  • ノイズキャンセリングイヤホンをして静かな場所で作業する。

こうした環境の工夫(合理的配慮)によって、人が変わったように力を発揮しやすくなることは、現場では本当によくあります。

⑥ 職場に伝えるかどうかも、すぐ決めなくていい

診断を受けると、「明日会社に行って、みんなに言わなければいけないの?」と心配になる方もいます。 でも、👉 診断を受けたからといって、職場に伝える義務は全くありません。

  • 病気を隠して働く(クローズ就労)
  • 病気を伝えて配慮をもらって働く(オープン就労)

どちらを選ぶかは、あなたの自由です。 何に困っているのか。どんな配慮があれば今の働き方を続けられそうなのか。 そうしたことを、まずは主治医やPSWと整理しながらゆっくり考えていけばいいのです。焦って大きな決断(退職やカミングアウト)をしなくて大丈夫ですよ。

⑦ 支援を利用することも「自分に合う方法」の一つ

一人で工夫するだけでは限界があるときには、プロの支援をどんどん使う方法もあります。 地域には、「発達障害者支援センター」などの相談機関があります。働くことについては、「就労移行支援」などの場所で、👉 模擬職場で働きながら自分の特性を分析する こともできます。

「これくらい、大人なんだから自分で何とかしなければ。」と思わなくて大丈夫です。 👉 支援を使うこと(人に頼ること)も、あなたが社会で生き残るための立派な「環境調整の工夫」です。

⑧ 診断は「答え」ではなく、自分の取扱説明書を作るための「入口」

診断を受けた瞬間に、「自分のことが全部分かった」となるわけではありません。 むしろ、そこから少しずつ、 「あ、私はこういう音が苦手なんだな。」 「こういう指示の出し方をされると楽なんだな。」 「この環境では力を出しやすいな。」 と、自分について深く知っていく時間が始まります。

私はそれを、👉 自分自身の“取扱説明書(ナビゲーションブック)”を作っていく作業 だと思っています。 その説明書は、一日では完成しません。働きながら。生活しながら。失敗したり、うまくいったりしながら。少しずつ、自分だけのデータを書き足していけばいいのです。

🌈 まとめ

発達障害と診断された。 その瞬間に、あなたの人生のすべてが変わるわけではありません。 安心する人もいます。戸惑う人もいます。ショックを受ける人もいます。どんな気持ちになっても大丈夫です。

大切なのは、診断名という型に自分を無理やり合わせることではなく、 👉 診断を「一つの手がかり」にして、自分に合う生き方(取扱説明書)を探していくこと です。

これまで、「どうして自分はできないんだろう」と自分を責めてきたあなたへ。 これからは少しずつ、👉 「自分なら、どんな環境になればできるだろう?」 と考えてみてもいいのではないでしょうか。

これまで自分を責めるために使ってきた莫大なエネルギーを、これからは「自分を理解し、守るため」に使っていく。診断は、そのための小さなスタート地点になります。 焦らなくて大丈夫です。あなた自身の“取扱説明書”を、これから少しずつ一緒に作っていきましょうね。

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