「自分には、いったいどんな仕事が向いているんだろう。」 発達障害と診断されたり、自分の発達特性(脳のクセ)について知ったりしたあと、こんな疑問を持つ方がたくさんいらっしゃいます。
これまで仕事で何度もつまずいてきた。 注意しても同じミスを繰り返してしまった。 職場を変えても、いつも同じような人間関係でうまくいかなかった。
そんなつらい経験が重なると、 👉 「そもそも自分は、社会で働くこと自体に向いていないのではないか……。」 と、絶望してしまうこともあるかもしれません。
でも、少しだけ見方を変えてみましょう。 👉 あなたは「働けない」のではなく、「あなたの力を発揮しにくい環境で、無理に頑張り続けてきた」だけなのかもしれません。
今回は、自分に合う働き方を見つけるためのヒントを、精神保健福祉士(PSW=MHSW)の視点から一緒に考えていきます。

① 「発達障害に向いている仕事」を探す前に
インターネットで検索すると、 「ADHD(注意欠如・多動症)に向いている仕事」 「ASD(自閉スペクトラム症)におすすめの職業」 といった情報がたくさん出てきます。もちろん、それらは仕事を考えるヒントになることはあります。
ただ、👉 「発達障害だから、絶対にこの仕事が向いている」と一括りにすることはできません。 なぜなら、同じ診断名であっても、得意なことも、苦手なことも、疲れやすい環境(音や光への過敏さなど)も、一人ひとり全く違うからです。
大切なのは、診断名という「ラベル」から仕事を選ぶことよりも、 👉 「自分自身は、どんな環境なら力を発揮しやすいのか」 を知ることです。
② 「何が苦手か」を徹底的に具体的にしてみる
「私は仕事ができない人間だ。」 そう考えてしまうと、世の中のすべての仕事が苦手に感じてしまいます。そこで、一度その「苦手」を細かく解剖してみます。
例えば、
- 「電話対応をしながら、メモを取る(別の作業をする)とパニックになる」
- 「急に新しい仕事を頼まれると、優先順位が分からなくなりフリーズする」
- 「『適当にやっておいて』という曖昧な指示だと、動けなくなる」
- 「周囲の話し声や電話の音が多いと、気が散って集中できない」
ここまで具体的になると、👉 「仕事ができない」という漠然とした絶望から、「私はこういう特定の状況(条件)が苦手なんだ」という具体的な分析へ変わります。 この違いは、対策を立てるうえでとても大切です。
③ 次は「うまくできたとき」を探してみる
苦手なことと同じくらい大切なのが、👉 「過去にうまくいった経験(得意な条件)」 を探すことです。
- 一人で黙々と集中して作業するときは、ミスが少なかった。
- マニュアルや手順がきっちり決まっている仕事は、安心して続けられた。
- 口頭ではなく、メールやチャットで文章の指示をもらうと完璧に理解できた。
- 人と話すのは疲れるけれど、大人数ではなく「一対一」なら落ち着いて対応できた。
こうした経験の中に、👉 あなたに合う働き方の最大のヒント が隠れています。 「できなかったこと」だけでなく、「どういう条件(環境)ならできたのか」に目を向けてみてください。
④ 「仕事の種類(職種)」だけでなく「職場環境」がすべて
同じ「事務職」という仕事内容でも、職場によって働きやすさは天と地ほど変わります。
- 指示が毎回口頭でコロコロ変わる職場と、マニュアルが整理されている職場。
- 忙しそうで質問しづらい職場と、チャットでいつでも確認しやすい職場。
- 常に電話が鳴り響いている職場と、静かな環境で集中できる職場。
発達特性がある方にとって、仕事内容そのものよりも👉 「環境との相性」が働きやすさの9割を左右する こともあります。 だから、「この仕事は自分に向いていなかった」と諦める前に、「あの職場のやり方(環境)が合わなかっただけかもしれない」と考えてみることが大切です。
⑤ 「配慮してもらう=甘え」ではありません
「職場に自分の特性を伝えてお願いするなんて、ワガママで申し訳ない。」 そう感じる真面目な方もいます。でも、少し工夫するだけであなたがしっかり仕事ができるようになるのであれば、それはお互いにとって大きなプラスです。
福祉の世界では、これを👉 「合理的配慮(ごうりてきはいりょ)」 と呼びます。 ✔ 指示を口頭だけでなく、必ず文章(メモ)でも伝えてもらう ✔ 一度に複数の指示を出さず、一つ終わったら次を指示してもらう ✔ 作業手順をチェックリスト化してもらう
必要な配慮は、一人ひとり違います。大切なのは、「何をしてほしいか」だけでなく👉 「そうしてもらうことで、私はこんなふうに会社に貢献できます(仕事がしやすくなります)」 とセットで伝えることです。
⑥ 一般就労だけが選択肢ではない
「正社員として、普通に働かなければいけない。」 そう思って、自分の首を絞めて無理を続けている方もいます。でも、働き方にはいくつかの選択肢があります。
- 一般就労(クローズ): 病気を伝えずに、自分で働き方を工夫する
- 一般就労(オープン): 職場に特性を伝え、必要な配慮をもらって働く
- 障害者雇用: 障害への配慮を前提とした枠組みで働く
- 就労移行支援: すぐに就職せず、まずは模擬職場で自分の得意・不得意を整理し、働く準備をする
どれが偉くて、どれが正解ということではありません。 👉 「今の自分が、一番無理なく安心して続けられる方法はどれだろう?」 という視点で選んでいいのです。
⑦ 「働き続けること(定着)」をゴールにしてみる
仕事を考えるとき、「正社員にならなければ」「週5日フルタイムで働かなければ」と思ってしまうことがあります。
でも、PSWとしてお伝えしたいのは、👉 「就職すること」がゴールではなく、「体調を崩さずに働き続けられること(定着)」が本当のゴール だということです。
無理をして入社し、頑張りすぎて数か月で体調を崩して休職するより、👉 最初は週3日や時短勤務から始めて、少し余裕を残しながら何年も長く働けるほう が、結果的にその人の人生にとってプラスになります。 勤務時間、通勤時間、休憩の取り方も含めて、すべてがあなたの「働き方」です。
⑧ PSWとして伝えたいこと。仕事だけで、あなたの価値は決まりません
仕事がうまくいかないと、👉 「自分には生きている価値がない」 と感じてしまう方がいます。
でも、仕事ができること(生産性)と、あなたという人間の価値は、全く別の話です。 働くことは生活の大切な一部分ですが、それがあなたの人生のすべてではありません。
だからこそ、「周りと同じように働けるか」という他人基準ではなく、👉 「自分が心と体の健康を保ちながら、無理なく働けるか」 を一番大切にしてほしいと思います。
🌈 まとめ
「自分には、どんな仕事が向いているんだろう。」 その答えは、発達障害という診断名だけでは絶対に決まりません。
まずは、 👉 どんな場面で困りやすいのか(苦手な条件) 👉 どんな環境ならうまくできたのか(得意な条件) 👉 どんな配慮(環境調整)があると働きやすいのか
これを、少しずつ整理して「自分のトリセツ」を作ってみてください。 これまで仕事でつまずいて流してきた涙も、決して無駄ではありません。 「ここでは苦しかった」「こういうやり方ならできた」というデータの一つひとつが、これから自分に合う働き方を探すための最強のヒントになります。
これまで、👉 「どうしたら、この仕事(環境)に自分を無理やり合わせられるだろう。」 と考え続けてきたあなたへ。 これからは少しだけ、👉 「どうしたら、自分に合う働き方(環境)をつくれるだろう。」 と考えてみてもいいのではないでしょうか。
働き方の形は、決して一つではありません。遠回りしても、途中で立ち止まっても大丈夫です。 あなたが無理なく、笑顔で続けられる場所を、PSWや支援者と一緒に少しずつ探していけばいいのです。


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